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斎藤芳盛
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洋吉が誕生してからというもの、親子の垣根は少しずつなくなっていった。竜次も、出張で関西に行く際には小百合の両親を訪ねた。竜次が独立してから、会社経営について小百合の父清十郎に相談する機会もあり、竜次は清十郎を実の父のように慕っていた。清十郎は会社経営の第一線を退き、人に経営を預けていた。暇をもてあました小百合の両親は、井ノ口市まで頻繁に来るまでになっていた。洋吉が誕生してからというもの、急速に小百合親子の距離は近づいたのだ。

それから17年の月日が流れた・・・

僕、如月洋吉は17歳、高校1年生になった。僕が生まれるまでに、いろんな人が関わり、そしてルーツがある。父竜次は社長になっても変わらず現場第一主義を貫いている。朝早くから夜遅くまで泥だらけになって働いている。母小百合は、如月工務店の経理事務をやっている。もともと銀行員だったみたいなので、それが生かされているのだと思う。

そんな父と母だが、母が何故、父のことを好きになったのか未だに分からない。いかつい顔をして、マッチョで顔だけを見ると、まるでその筋の人なのだ。ただ、父が母に対して凄いと思うことは、母との記念日などに必ずプレゼントを贈るというところだ。如月家にはそういった日が年に10回近くあるようだ。ほぼ毎月、記念日があることになる。そんな父のギャップを、僕は不思議に思っていた。

父の母、タイばあちゃんとは、僕が小学4年生の時から同居している。ちょうど、今住んでいる家が新築した年だ。タイばあちゃんはいつも元気で近所の人からも気さくな人柄で好かれている。僕にとっては、母親以上に口うるさい存在だ。僕に対する口癖は『お父さんが洋ちゃんの歳の頃にはもっとしっかりとしてた』とよく言われる。母が何も言わない分、ばあちゃんが変わって3倍くらいの勢いで僕に物申すといった感じだ。僕には3歳年下の妹がいる。名前は奈緒。僕とは正反対のような妹だ。妹のことは、またの機会に話したいと思う。

17歳になった洋吉。彼が生まれる前このような事が起こっていた。彼もまたこれから様々な経験や出来事を乗り越えていくことになる。数多くの人の人生から如月洋吉は始まったのだ。


『如月洋吉の始まり』終わり。『ガリ吉と呼ばれて・・・』に続く。

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結婚と同時に小百合は銀行を辞め専業主婦となり、竜次はますます仕事で活躍し、忙しくなっていた。小百合の両親とは疎遠となり、未だに交流はなかった。しかし竜次は小百合の両親を想い、事あるごとに手紙を送り続けていた。結婚から3年の月日が流れた。ある日の事、小百合は朝から体調が悪かった。竜次は小百合の事が心配だったが、今日は現場を任された大事な仕事があった。竜次は後ろ髪を引かれる思いで家を出た。小百合は一日中、吐き気と体のだるさで寝込み続けた。竜次が急いで家に帰ってからもその症状は治まらなかった。次の日、竜次は小百合と共に病院に行く。医師が診察を行い言った。

「10番の診察室の前で待っていてください」
竜次と小百合はしばらく待った。
「如月さんどうぞ!」
診察室に呼ばれると違う医師が小百合の腹を抑えながら聴診器をあてる。診察を終えると竜次と小百合の目を見て医師が言った。
「おめでとうございます!妊娠3ヶ月です」

二人は信じられず、喜びのあまりしばらくの沈黙が続いた。しばらく経って竜次と小百合はお互いの目をみつ
めって両手を握りあった。竜次の目にはうっすらと光るものが流れていた。竜次は小百合の両親にこのことを手紙で報告した。それからまもなく、小百合の母親、里美から電話があった。竜次が出るとすぐに小百合に変わった。会話の内容は知るところではないが、小百合はうっすら笑みを浮かべ涙ぐんでいたようにも見えた。
翌年の4月、3654グラム健康状態は良好。如月家の長男が誕生した。大西洋よりも広い心で、凶よりも吉がいいだろうという理由で、竜次が洋吉と名づけたのだった。




小百合の実家の前に二人は立っていた。大きな赤レンガの門と、頑丈なつくりの家が二人には見た目以上に大きく見えた。呼び鈴を鳴らすと小百合の母、里美がでてきた。里美は竜次と小百合を見つめ一瞬の間をもった。何かを感じた里美は、二人を家の中に入れた。少ない時間では数え切れないほどの部屋の数々と広さ。竜次はあたりを見回すようにして進み、居間に通された。居間へ進むと、中央に小百合の父清十郎が貫禄ある姿で座っていた。小百合の父清十郎、母里美と向かい合って二人は座った。しばらく無言の沈黙が空気を包む。息を切らしたように竜次が口を開いた。
「岐阜で小百合さんとお付き合いさせて頂いております、如月竜次と申します!」
竜次は小百合との経緯を清十郎の前で話した。清十郎は竜次の話を聞いて、一拍の時間をおいて話した。
「如月さんはどんな育ちかね?」
「小百合には経済的にひもじい思いはさせたくないんや」
「分かってくれるか?竜次君」

清十郎は里美に耳打ちをすると里美は場所を外した。しばらくたって里美が戻ってくると、風呂敷に包まれたものをテーブルの上に置いた。清十郎が風呂敷の結びをほどくと、中には札束が入っていた。清十郎は、竜次が風呂敷に目をやったのを確認すると、こう言った。

「竜次君、この金で商売したらよろしい・・・」

頭をテーブルに押し付け清十郎は言った。
「そのかわり、小百合と別れてくれ!」
それを見た小百合は怒りに任せて怒声を張った。
「おとおちゃんもおかあちゃんも、私の気持ちなんて分かってくれんのやね!!」
「分かった。もう親であって親じゃないわ!!!」
それを聞いて慌てたようにして清十郎が言った。
「さ、小百合!!」
「それでええのんか?もうこの家の敷居は跨がせへんで!!」
小百合は勢いのままに言った。
「こっちから願い下げやわ!!」
清十郎は小百合の言葉に言い返す言葉もなく、最後の言葉を言ってしまった。

「おまえなんて勘当や!二度と顔を見たくないわ!」

里美は清十郎の腕を掴んでなだめようとするが、清十郎は譲らなかった。
小百合は竜次の目を見て、手を強引に引っ張り家を出た。
家から少し離れてから小百合は竜次に言った。
「あんな親もう知らん!最低な親やわ・・・」
小百合の言葉を制して竜次は言った。
「誰も、小百合のことが憎くて言ったわけやないよ!」
「小百合の事を大切に思ってるから言ったんやで・・・」
「僕は、小さい時に親父を亡くしとる。小百合が羨ましいわ」
「子供を嫌う親なんていないんやで、いつかきっと分かってくれるて」

それから半年後、竜次と小百合は結婚することになる。小百合の父、母との関係は未だ変わっていなかったが駆け落ち同然で二人は夫婦となった。





一週間後の日曜日、井ノ口市街のレストランで竜次と小百合は食事をした。竜次の服装は始めて会った時とは違い、カジュアルな服装だった。当時のアイビールックと呼ばれるファッションで竜次はきめてきていた。しかし、パンチパーマは変わらぬところだった。小百合は竜次に対し恐ろしい印象を抱いていたが、話していくうちにそれは解消されていった。それどころか、包容力があり、生い立ちなどを聞くと小百合の経験したことのない苦労もしていた。小百合はお嬢様育ちの為、竜次のように自分で道を開いてきた人と出会ったのは始めてだった。それから、何度かデートを重ね小百合は竜次を信頼できる男性だと思った。交際し始めて1年が過ぎた頃、二人は一緒に家庭を持ちたいと意識し合っていた。竜次と小百合は、小百合の両親に会いにいくことを決意する。

数日が過ぎ、竜次と小百合は新羽島駅から新幹線に乗り、神戸へ向かった。小百合の両親がどんな反応を示すかは目に見えていた。小百合の両親は名家とよばれる家にしか娘を嫁がせないと決め込んでいたからだ。竜次は粗相があってはならないと、紺のスーツと慣れない渋めのネクタイをぎゅっと締め、緊張からか、新幹線での二人の会話はほとんどなかった。

神戸の実家の前に二人は立っていた。小百合は竜次を連れてくる事を知らせずにいた。なぜなら、会う前から厳しく両親に反対され、竜次を会わせられなくなるのは必然だったからだ。



小百合は殺されると思った・・・。
その男が恐怖感を沸き立たせるいでたちだったからだ。男は小百合に声をかけた。
「こんばんは。僕、酔っていませんので・・・」
小百合は唖然とした。荒々しい人間だと思ったが男の声が予想外に静かだったからだ。男は、小百合が飲んでいた飲み物を横にずらし、下に敷いてあった紙製の丸いコースターを手に取った。白いスーツの内ポケットから手帳を取り出し、挟んであったペンでコースターに何かを書き始めた。書いたあとコースターを内側に折り、男はそっと小百合に渡した。すぐに男は一緒に飲んでいた仲間のところへ戻り、それから話すことはなかった。小百合はアパートへ帰り、コースターを見た。名前と電話番号が書いてある。『如月竜次 tel・・・・』
丁寧でキレイな字だった。小百合はギャップを感じた。男に対する初対面の印象は最悪だったが、紳士的な人・・・。

それから一週間の間の間、小百合はコースターに書かれた如月竜次という男が気になっていた。如月竜次という男に電話してみようと思った。自分が悪い印象を持っていたことに罪悪感を感じていたし、小百合にとって男は気になる存在になっていた。電話をしてみた。少し怖いと思ったが迷いは無かった。しばらくコール音が鳴り男が電話に出る。

「もしもし、如月です・・・」

小百合は少し混乱して何を話しているのか自分でも分から程だったが、沈黙を恐れて話し続けた。それに対して男は思いのほか落ち着いた様子だった。会話は続き、男は当時27歳で井ノ口市内の土木業者に働いている事が分かった。初対面ではもっと年上のような印象を受けたもが、思いのほか若かった。自分には無いものを竜次に感じた小百合は、一週間後の日曜日に食事をする事になった。



小百合が井ノ口市に来て6ヶ月が過ぎた11月。仕事にも慣れ、岐阜弁も理解できるようになっていた。紅葉も鮮やかで、冷たい風が流れる。井ノ口市内の繁華街もにぎやかで、金曜になると人があふれた。そんなある日職場の先輩、岩元美加に声を掛けられる。
「小百合、今日はぱーっと飲みにいかへん?」
「付き合ってくれるやろ!!」
小百合の片腕をしっかりとホールドするように、両手で抱えながら岩元は言った。小百合はあまりの強引さといつも仕事を教えてもらっている手前もあり、こう言った。
「い、いいですけど・・・」
「でも、今日金曜ゆうても明日仕事ありますやん。あまり遅くならんかったらいいですよ」
二人は、たまに行く柳ヶ瀬の店へ行くこととなった。20時、最後に残った伝票整理も終わり二人は柳ヶ瀬に向かう。店に入り、岩元が飲みはじめて1時間後、岩元は仕事の愚痴を小百合にぶちまけていた。そう、岩元は愚痴の当たり場として小百合を誘ったのだ。課長に何かを言われた時、岩元は荒れた・・・。そのストレスは飲み屋という社交場の中で小百合に余すことなくあびさられたのだ。岩元の愚痴を聞き続けて2時間がたった時の事・・・小百合は後ろの方からただならぬ気配を感じた。後ろを振り向くと、

「エッ!!」

思わず小百合は小さく口に出した。歳のころは30代前半。180センチ前後、いかつく、パンチパーマにサングラス、白いスーツにエナメルの靴。間違いなくその筋の人と思われる男が小百合の斜め後ろに立っていた。その空気を察してか、岩元は酔いもさめた様子でこう言った。
「明日、私、朝早いんだった・・・小百合はゆっくりしていきなよ!!」
そう言うと岩元は小百合を見放し店をあとにした。岩元の裏切りを恨む間もなくその時、小百合は恐怖に襲われていた。



僕の母、小百合は兵庫県神戸市に室井清十郎、里美の間に3人姉妹の次女として生まれる。母の実家は貿易会社を営んでおり、一言でいえばお嬢様育ちだった。幼少時代より、バレイ、琴、茶道、生花、ピアノなど様々な習い事をしていたようだ。清十郎と里美は仕事の関係で海外に出かけることが多かった。その為、家事は家政婦が全てやっていた。小百合は小学校、中学、高校と地元の名門私立大学付属の学校に通う。その後、エスカレートで付属短大へ進む。小百合自身、そんな箱入り育ちへの反発か、短大卒業後は親元を離れたいという欲求があったようだ。

小百合は短大卒業後、見合いを繰り返す。両親の強制的な見合いだった。小百合の両親は名家の御曹司と結婚させたかったようだ。そのたびに小百合は見合いをぶち壊すことに苦慮した。見合いの席での暴言や、男まさりな態度をとるなどして見合い相手のおぼっちゃま達をノックアウトする。その後、小百合は38回の見合いをすることになる。38回目の見合いを無事、完勝した小百合は両親に告げる。

「今までは、おとうちゃん、おかあちゃんの言うこと聞いてきたけど、それじゃあアカン思うねん!」
「自立せなあかんねん!」
「許して・・・」

38回も縁談を組み、清十郎はあきれるを通り越して失望の極みだった。強張った表情で、重い口を開き清十郎は小百合に言った。
「勝手にせい!そのかわり援助はせぃへんからな!!!」
それからまもなく、小百合は岐阜県井ノ口市内の銀行に就職する事となる。



僕の父はこだわりを持っている。朝は早くに出る事が多いので朝食は家族別々になることが多いが、夜食は家族で必ず食べるという事を今まで守ってきた。会社の従業員やお得意先の社長などと、週に5日は飲みに行くのだが、必ず家に戻ってきて家族と食事をすることは怠らない。井ノ口市の歓楽街、柳ヶ瀬へ繰り出し、夜遅くまで飲んでいるにもかかわらず、朝、寝坊したことは一度もない。父の尊敬するところでもある。

父の趣味は酒のコレクションだ。洋酒や焼酎、日本酒など、高価な酒が我が家に900以上ある。しかし、開封はされていない。あくまでコレクションであって、飲むための物ではないらしい。会社の従業員が家に来た時など、酔った勢いでコレクションに手を付けようとすると、父は焦った表情で「ダメ、ダメ!!」と酒を取ろうとする手を制するのであった。コレクションは父が器用に作った陳列棚に収められている。洋酒、焼酎、日本酒と三つの棚に別けられており、こだわりの程が知れる。僕の切手収集も父のこんな一面が少なからず影響しているのかもしれない。

父は時々、烈火のごとく怒るときがある。一番は食事の事について。農家で育った父は、食べ物をつくる大変さや苦労を知っている。その為、食事をまずそうな食べ方をしたり、もちろんの事ながら残すような事があろうものなら父の怒りはマックスに達する。そんな時は鉄拳制裁が待っていた。父のヘビー級クラスの鉄拳が容赦なく僕の顔面を貫く!痛いという表現では納まらない。全てが砕けるという表現が適当だ。ときには、理由が分からないが殴られる時がある。父が日頃「男は強くあれ!!」と繰り返し言っていることから、僕の態度が女々しかったりするのだと推察する。

僕が高校1年の春、ある出来事が起きた。父親の殺気を感じ、鉄拳制裁の予感!予想どうり、父は拳をくりだした。ところが、父のナックルパンチがスローモーションに見え、起動がくっきりと見えたのだ。すかさず僕はパンチをよけた!おそらく、十数年パンチを受けてきた僕に何かが備わったのだろう。父は一瞬唖然とした顔をしたが、マックスだった父の怒りがパンチをよけた事により、マックスからマックスを越えるスーパーマックスへと至らしめてしまった・・・

一瞬間が開き、「この野郎ぉ~~っ!!!」という父の怒声が我が家を襲った。その後、一発受ければよかったパンチを僕は十数発も受けるはめになる。それからというもの、父のパンチを素直に受けることを心がけた。その方が懸命だと判断したからだ。しかし、十数年もただ父のハンマーパンチを受けてきたわけではない。あのパンチをまともに受ければ失神KOは必至。僕は時を経て、パンチを受ける直前に首をパンチの進行方向に振り、衝撃を逃がすという奥義を身につけていた。見た目はパンチの破壊力によって首がねじれているかのように見える為、父としてもこれ以上殴れないという制御本能が働き、一発のパンチで父の怒りは納まるのであった。

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