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斎藤芳盛
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やがて、春が訪れた。竜次は密かに決意していた。それは中学卒業後、働くということだ。その旨を母、タイに話す時がやってきた。

「おかあちゃん!!」

タイは内職の仕付けをしながら竜次の方に振り向く。竜次がいつにもなく強張った真剣な表情をタイは察して言った。

「竜ちゃんは何も心配しんでもいいんだよ!ありがたい事に内職の仕事もたくさんあるし、あんたは何も考えんでもええでな」
母は子の心を肌で感じ取っていた。タイの言葉に竜次の目からは大粒の熱いものがこみ上げた。あふれるものを手で覆いながら竜次は母の顔を見つめる。竜次が次の言葉を発しようとしたとき、タイは竜次に諭すように言った。

「あんたは高校に行かなあかん!長男なんやし、いっぱい勉強して人様のお役に立てる偉い人になっておくれ!竜ちゃんも知ってのとおり、うちは貧乏農家で家系の中に学のある人、一人もおりゃせん。あんたが勉強して母ちゃんに学んだことを教えておくれ!それが一番の親孝行やに、なっ!」
しばらく竜次は何も言えなかった。朝から晩まで働いて、働いて、それでも微々たる収入しかない中、竜次進学の為にそれ以上母を働かせることになるという現状を考えると、竜次の胸は、ただ苦しかった。それでも勢いをつけるようにして竜次は口を開いた。

「かあちゃん!俺、働くよ!!もし俺が高校行けたとしても、後の弟2人を進学させる事はできん。そんなら、俺が働いて弟2人を必ず高校に行かせるから!俺は勉強嫌いやからちょうどいいやろ!」

タイは竜次の目を見て言った。
「竜ちゃんごめんね!ごめんね!ごめん・・・・・・」

タイは何度も、何度も竜次に詫びた。竜次は何も言わずタイの肩を抱き、なだめた。そして、タイの頬に光るものが見えた。それは、タイが子供の前で始めて見せたものだった。
その後、竜次は井ノ口市内の土木業者、㈲佐伯公務店に就職する。15歳という若さだった。

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