岐阜県、井ノ口市は中心部の神田町、柳ヶ瀬に私鉄、JR、バスなどの交通機関が集中している。その為、朝になると通勤・通学の会社員、学生たちが岐阜市の中心部を経由するのだ。愛知県や、井ノ口市周辺地域から、電車で私鉄・新井ノ口駅、JR・井ノ口駅で下車し、各場所にバスで向かうというのが一般的だ。特に、朝の通勤・通学ラッシュの時間帯、朝8時頃になると電車、バスともにすし詰め状態になる。乗り物に押し込まれて、女子高生の甲(かん)高い声があちらこちらで聴こえてくる。この井ノ口市街には、デパート、商店街、歓楽街、市役所などが半径800メートル程の狭い地域に集まっていた。
あれは、僕が小学校3年生の時だった。誕生日が近くなったある日曜日の事だった。母親と一緒にバスで20分くらいかけて、私鉄・新井ノ口駅に隣接する新井ノ口百貨店へ出かけた。もちろん、誕生日プレゼントを選ぶ為だ。僕は昔から、物事を決めることが苦手だった。誕生日の1ヶ月前から母親に『誕生日プレゼントは何がいい?』と聞かれていたにも関わらず、『わから~ん!』と言い決めかね、親を困らせていた。そこで、母親の提案で、誕生日プレゼントを一緒に見にいくことになった。新井ノ口百貨店は古い建物で、昔からある5階建ての百貨店だ。1階は食料品売り場。物産展なども行われている。2階は婦人衣料、3階は紳士衣料、4階は家具などの生活用品、5階は小物や文具、専門店が並んだ。そして屋上は小規模はゲームセンターと野外広場になっており、電灯が四方に釣り下げられ、金属のフェンスで周りを囲われている。昔は、この広場で芸能人のショーなども行われていたようだ。広場には人工芝が敷き詰められ、その上を大きな熊やパンダが四つんばいになり、何故か背中にはハンドルが付いている!更に、コインを入れる投入口がもうけられ、100円玉を入れると2分間だけハンドルを動かすままに動いてくれた。まさにそこは、子供にとってのパラダイスそのものだったのだ。
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